混沌への弾道 ―早稲田大学代数幾何学セミナー懇親会史3― |
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さて、関口僧兵軍団との接近遭遇をひとつの大きな節目とするならば、次の大きな節目は、探偵の顔も持つ日本酒研究家の中越健之氏との出会いにあります。 彼ら軍団との接近遭遇以降、つまみに対してはかなり、抵抗感なしに予算を使うようになりましたが、それでも酒に対しては、とりあえずアルコールが入っていればよろしい、という程度の考えしかなく、たとえばそのころ、970円の『美少年』などというあやしい安酒を買って飲んだりしていました。今ふりかえってみれば、まことに慎ましやかでした。新宿駅西口の飲み屋で各自一杯3千円の‘実験実習費’などを払いつつ、『日本酒概論』、『天狗舞特論』や、探偵技術のひとつとしての『変装の実際―女装編―』など、中越師範のありがたい、いろいろなレクチャーをきくにつれて、日本酒には、その成分や、米の精製の度合から、吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、.......、という分類があるのだという、今になってはかなり初歩的と思われる事項を、恥ずかしながらその頃初めて学習しました。そして、天狗舞の吟こうぶり(これはすごい)、上善水如、梅錦、......、を次々と摂取し、まるでリンゴジュースのような味で、こんなにうまい日本酒があるんだな、などとナイーブなことをしみじみ思ってしまいました。中越師範の御指導のもと皆の日本酒に対する第三の眼が拓かれるにつれて、酒、特に日本酒に対する予算が爆発的に増加してゆきました。そして、飲み会の時間も2時か3時頃から用意を始めて、終電ぎりぎり、または、.....、というデスマッチ形式となってゆきました。
このころ、予算の肥大化などに伴い、酒、つまみ、料理等のいろいろな分野に対して、買い出しの分業化が進みました。大きく分けて、調理する者、買物をする者に分かれ、さらにこれが酒を買う者とつまみを買う者に分かれます。このころから慣習となったことですが、忘年会を始めるときは、まず、誰がどの部署の責任者となるかの人事を行い、次に残った者のうち誰がどの部署に付くかを決めて、いろいろな役職をふりわけます。次に、各部署への予算配分を決めます。ここではとくに次の部署の様子について詳しく述べたいと思います: 調理するもの―――これは、長い時間エレベーター裏の調理場に詰めていなくてはならない、或る意味では地味でつらい仕事です。その一方ではとても才能、能力を必要とし、かつ、その年の忘年会の成否を決める重要な部署でもあります。おでんパーティーを始めた頃は、おでんの“つゆの素”などを買って済ましておりましたが、最近では、だしの取り方から、大根の煮方まで、素人からみるとそれは無限と思われるほどの秘技の数々、そして、代々蓄積、伝授されてきたノウハウがいろいろとあり、そのすべてを体得した達人は敬意を込めて、《主席シェフ》、と現在は呼ばれています。このポジションは担当する人の個性によって、ときには《料理隊長》とも呼ばれたりしたこともありましたが、すぐにそれは禁句となりました。というのもあるとき、まわりから、料理隊長っ!!!と、力と敬意を込めて呼ばれた者が51号館5階全域を強烈な油汁臭ガスにより×××××××する大惨事を引き起こしたことがあったからです:それは、松本プリン事件と並んで現在でも《大久保のすじ肉事件》として記憶に生々しいもので、随分と連絡事務室の岸さんに怒られたようでした。現在の主席シェフは原 伸生氏であります。名誉シェフのひとりとしては吉祥寺のもと仙人、最近ではマックを使って×××××している山脇教明卿がいらっしゃいます。また、かつては、大根のプロフェッショナル、赤堀克巳氏など、特定の食材に対する専門のシェフを抱えていた時期もありました。
酒を買うもの―――酒買い出し部隊の楽しみのひとつは、試飲にあります。普段ではもったいなくて、いっぺんには使えそうもない大金をもって、シャンパン(実際買うのは、スパークリングワイン)などを試飲しながら選ぶのはまことに楽しいものです。初めのうちは遠慮しがちに、照れながら、試飲コーナーを訪れていたのですが、最近では段々と、試飲の際の酒を要求する態度が大きく横柄になり、ある時は大久保酒屋連盟御一行様、と間違われることもありました(私ではない)。また、日本酒を専門領域とするある者は、我々にいろいろな日本酒に対する講釈を店内で大声でぶっていたためか、または、体から発するオーラのためか、他の客に店員と間違われ酒を選んでくれといわれたこともありました。現在の買物隊長は、つまみ隊長も兼任する楫研のトップ、2代目オカシラ、大野真裕氏、酒隊長としては、凄まじいフォースの使い手としてJRの世界で恐れられている防衛大学校の鬼教官、松原 隆氏、彼らの参謀として、早稲田大学理工学部数学教室の知恵袋、全き知識を持つ者、オババこと、森本貴志氏、最近イタリアから帰国したビール通の前田英敏氏(九州大学)、日本酒の師匠、中越健之氏、そして、自称、女子大生のアイドル、実はマダムの×××××である、横浜国大の野間 淳青年がいらっしゃいます。
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