「早稲田数学会たより」 『数理科学科の近況』数理科学科主任教授 楫 元 (30回卒) |
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小松啓一先生に代わって2003年9月16日から1年間, 数理科学科主任を任かされました, 楫 元 (かじはじめ) と申します. よろしくお願いいたします.
数理科学科の近況ですが, まず, 2003年の4月から, 谷口正信先生, 米田 元先生の御二人を新しく数理科学科に御迎えしました. ご専門は, 谷口先生が数理統計学, 米田先生が計算数学と相対性理論です. 数理科学科の応用数学面における教育・研究がますます充実することになりました. 因みに, 米田先生は理工学部数学科第37回卒業生です (お名前は私と同じ字の‘元’ですが, 米田先生の場合は「げん」と読みます). また, この7月と9月には, 恒例行事『理工オープンキャンパス』が催され, 合わせて学科別進学説明会が開かれました. 数理科学科のブースに詰めていたところ, 受験生を持つ親御さんから「数学科と数理科学科とは, どう違うのですか?」 と尋ねられました. また, 「数理科学科では入学後, 数学だけではなく理科についても, よくできることが求められるのでしょうか?」とも尋ねられました. この質問に対しては「いいえ, そんなことはありません」とお答えしましたが, なぜそのように思われたのでしょうか. 多分, ‘数理科学’は, ‘数学’の中央に‘理科’を挿入した形をしているからかも知れません. また, ある高校生からは「数理科学科の‘理’は, 何を意味していますか?」とも尋ねられました. 5年前の1998年4月, 数学系教員の再統合と共に, 数学科から数理科学科へ名称変更し, 既に2回, 数理科学科‘純正’卒業生を世に送り出しております. 数学科と言えばわかりやすいのですが, どうも数理科学科という言葉は, なかなか意味がとらえにくいようです. 理工学研究科要項では, 数理科学専攻の目的は「純粋数学・応用数学を包含した意味での数理科学の多様な分野に現れる問題を数学的に研究すること」としております. あえて名称変更を行なったのは「代数・幾何・解析などのいわゆる純粋数学だけではなく, 時代の変化・要請に合わせて, 応用数学方面にも眼を向け, これまでよりも重視しよう! という意気込みないしその決意の表明」というところでしょうか. 実際, 谷口・米田両先生を御迎えして, 現在の数理科学科専任教員は, 代数4名, 幾何4名, 解析5名, 数学基礎論1名, 数理哲学・数学史1名, 確率統計2名, 計算数学3名, 合計20名の陣容となり, 代数・幾何・解析以外のスタッフ数が全体の1/3を越えるようになりました (もちろん, 代数・幾何・解析以外は純粋数学ではない, と申しているわけではありません). また, カリキュラムに関しても, たとえば, 『現象の数理』, 『実験数理科学』という, 数学科時代では考えつかなかったような科目も設置されています. 純粋数学と考えられていた整数論や代数幾何学が符号理論・暗号理論に応用され, 偏微分方程式論や確率論が金融工学において重要な役割を果たす昨今ですから, もう純粋・応用にこだわる時代ではないのかも知れません. 一方, 学科名称変更を追って2000年度, 新たに創設された科目として, 『数理科学演習』があります. 小島 順先生 (現在, 早稲田大学名誉教授) が前々号「早稲田数学会たより」で紹介されましたように, その内容は, 新入生を少人数グループに分けて, 一年生の時からセミナー形式の授業を行なうもので, 「数学を自ら学び, 発表する体験をさせる. また, その方法自体を学ばせたい」というのがその意図です. その第一号の学生達が, 2004年2月には卒業研究発表会を迎えることになりました. 勉学的効果という意味では, 従来からあるセミナー『数学講究A/B』が開始される3年後期の時点において, セミナーというものを全く知らない学生はいなくなったという程度ではないかとも思われます. しかし, 新入生オリエンテーションで「僕は, ○×研究室です!」と, うれしそうに自己紹介する学生を見ていると, 機械的に教員を割り振っているのにも関わらず, 学生の大学離れを防ぐ何らかの効果は発揮しているのではないかとも思えます. 「2年生になったら, 数理科学演習はもう無いんですか?」と残念そうに尋ねられたりすることもあり, 学生には概ね好評のようであります. 数理科学科を取り巻く環境に眼を向けますと, 専任教員数230強の大所帯になってしまった理工学部・理工学研究科大学院の分割を狙う『新理工系再編』について, 非常に活発な議論が続けられて来ました. そして, 紆余曲折はありましたが昨年末,『3学部・3研究科』への分割案が, 想定される構成学科・構成専攻も含めて, 合同教授会において満場一致で決りました. しかし, 最終的にどのような形に落ち着くのか, 蓋を開けてみなければ全く解らない状況です. 最後に, 2002年5月8日に, 私の恩師, 有馬 哲先生が亡くなられました. 私にとっては, 母を亡くした事に次ぐ非常に悲しい出来事でした. インターネット上で追悼文集原稿を募集しております. どなたでも, 御寄稿いただければ幸いです. URL: http://pc193097.pc.waseda.ac.jp/Kadim.html [2004/01/09] 戻る |