Rio通信: オニブス


治安

ガイドブックによっては, リオデジャネイロは非常に治安が悪く, 公共の市内バスなどは危険なので, なるべくタクシーを利用する方がよい, などと書かれている. 責任問題もあるだろうから, 大げさに危険であると書くことはあると思う.

「でも, オニブスはそんなに危なくない」 と書きたいところだけれど, やっぱり危ないらしい. ある年のインパでの研究集会の際, 同じホテルに滞在していたある数学者は, 以前, オニブス内でホールドアップに遭ったことがある, といっていた. ナイフで脅されたそうである. 何となく, 別世界の話かと思っていると, そうではなく, いつ自分の身に降りかかってくるかわからないことである. 知り合いの人の体験として話を聞くと, やっぱり結構怖い. 私は今でもインパや買い物に行く際などオニブスを使っているが, この数学者は, 用心してオニブスを使わず, たしかにインパに行くときは必ずホテルからタクシーを使っていた.

実は, 観光客だけでなく地元の人もオニブス内でのホールドアップに, 結構神経を尖らせているようである. たとえば, 夜などオニブスに乗る際, どの席が安全か? ということについて, 二世の方から次のようなアドバイスを頂いた:

『なるべく前の席』
そして,
『通路側の席』
ということだった. 前の方が安全という気はしないでもないが, 通路側のが安全, というのはなぜか解らず, 理由を聞いてみると, 窓側に座っている場合, 通路側に強盗に座わられすぐ脇から脅される, ということがあり, 他の人にはホールドアップされていることが露見しにくいので狙われやすい, とのこと. なるほど, って思った.

これが理由かどうか解らないけれど, オニブス内で自分の眼から見ると執拗に通路側に居続けようとする人がいて, 結構, 不思議, というか, なぜ奥に (窓側に) 詰めて, 他の人がすぐ座れるようにしてあげないのだろう, などと思っていた. この話を聞いてからは, 自衛のためなのかもしれない, と思うようになった.

さて, 幸い, このページを書いている時点までには, 自分はリオデジャネイロのオニブス内でホールドアップに遭ったことはない. ただ, 結構怖い, と思ったことがないでもない. 脅されたり絡まれたりしたことは無いが, ある日, オニブスに乗っていたら, 自分の席の斜め前方に, なにか一人でぶつぶつ言っている, 風体が怪しい感じの乗客が座っていることに気づいた. ちょっと怖いなぁー, と思って警戒していたら, その人, おもむろに, タバコを取り出して, すぱすぱ吸い始めた. 日本と同じくオニブスの中は禁煙である. ほとんど運転手の真横に近い, 前の方の席であり, これはなんか良くないことが起きるんじゃないか, たとえば, 運転手がそれを注意してその客が逆上して... , なんて, 想像しつつ身を堅くしていた. しかし, 運転手は, 乗客の喫煙には無頓着で, 結局それは単に客の一人が禁煙の車内でタバコをすった, ということだけ, 自分だけが単に怖がっていただけのようである.

後日談: 最近気づいたのだが, 運転手や車掌自身がタバコをすっていることも見かけるのである. 自分はバカだった, とつくづく思ってしまいました. 運転手が乗客の喫煙を咎める, 等ということは, いかにも日本的北半球的発想だったかもしれない.

ところで, 車内前方上部に, 絵 (と簡単な言葉) で表された車内規則の書かれたプレートが貼ってある.

通常, 5種類の絵が表示されている.

ここまでは, 子供でも, またポルトガル語が解らなくても, 見れば何となく意味が解ると思う.

問題は次である:

これは, 何を意味するのだろう? バス車内にバスの絵を描いてどういうつもりか?

考えても解らないので, ブラジル人の友人に聞いてみた. これは

「我々運転手は, 停留所にしか止まりません」
という意味なんだそうな.

確かにでたらめなところで止まるし, なるほど, と思ったが, さらに, これは, 乗客に対する規則というよりも, バス会社が, 運転手, 車掌に対しても, お前らも守れよ, と言っているのだ, と思いましたね. とても納得してしまいました.

さらに, 後日談: ある日乗ったオニブスには, その車内規則一覧の周りに, いたずら書きのようなものが, チョークか何かで書いてある. よくよく見てみると,
「Nao Fume!」
という文句が繰り返し書いてある. 『煙草を吸うな!』という意味だろう. この運転手は嫌煙家らしく, ぐりぐり思いっ切り力強く, 書いてあった. このバス内で煙草でも吸おうもんなら, 血の雨が降るかも知れませんね.

さらに後日談: バス車内をよく見ていると, バス前部の運転手のすぐ上には, また別の, 文字だけのプレートが貼られている. 辞書を引いてみると, 『本質的な事以外運転手に話しかけるな』という意味. なぜこれは絵文字じゃないのか? と思ったけれど, たぶん, 見て意味の分からない人間は, 結局運転手と無駄話をすることが出来ないので, 絵で表す必要はないのですね. 一方, ポルトガル語なんか解らない観光客に対しても, 『禁煙』などの規則が伝わらないといけないので, それらは絵で描いてある, ということなんでしょう.

さらに, さらに, 後日談: オニブスで自分の一番好きな座席は, 右側前から2番目の座席が高く前が一番よく見えるところなのだが (まるでコドモだ), 先日, そのお気に入りの座席に座って TeXで打った自分の論文を校正していたら, 何か運転手がぶつぶつ言っている. 多分, 他の客に話しかけてんだろう, と思って校正に集中していたのだけれど, そのうち, ちらちらこちらの顔を見始めた. どうやらこの運転手, 自分に話しかけていたようである.

このように, 近くに座った乗客に話しかける運転手は結構多く, 最初は友人だから話しかけているのだろうと思っていたけれど, そうではないようだ. 運転手のすぐ上にある『この本質的な事以外 ...』も, 実はバス会社が運転手に対しても, 無駄口を聞きながら運転するなよ, と言っているのかもしれない.

午前11時半頃レブロン辺りを通る125番はよく利用するが, この運転手もよく乗客とおしゃべりしながら運転している. しかも, この運転手, 終点のHortoに近くなると, いつも歌を歌い始める. こちらの人は本当に陽気だ.

さらに, 後日談: 今度は, 別のチョークグリグリを見た. 辞書を引き引き解読してみると, 要するに,

『細かいブロックごとなんかには, オレは止まらないからね!』
という意味だった. どこでも降ろしてもらえる訳ではないらしい.

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