Rio通信: カリオカ, そして, ブラジルの人々


公衆道徳

あまりエラそうなことは書きたくないが, とにかく, びっくりしたことがいくつかある.

ペット 街を歩いて驚くのは, イパネマやレブロンの綺麗な街並みと対照的に, 舗道にあまりにもたくさんの, 犬のものと思しき排泄物が転がっていることである. これは別にイパネマ・レブロン地区に限らず, ダウンタウンに行っても状況は同じで, よく足もとを見ないで歩いていると, 飛んでもないものを踏ん付けてしまうことになる. 今のところ, そんな目に遭ってないが, とにかく, よく転がっている. 犬を飼っているカリオカは多いようだけれど, 散歩に連れて外に出る際, ビニール袋など持ち歩かないようである. お犬様にはどこでも自由にさせてあげるようで, 実際, 何回か舗道で, 後ろ脚をぷるぷる緊張させて踏ん張っているお犬様, そしてそれを横で待っている愛犬家の方々にお会いした. 別に後始末をするわけでもなく, その後は何事も無かったようにさっさと御散歩をつづけるようである.

携帯電話 こちらの人は本当におしゃべりが好きである. バス停やバス車内で, 見知らぬ人どうしでも, 結構おしゃべりをしている. さらに電話が大好きなようで, 日本と同様に, もうほとんど誰でも携帯電話を持っている. で, これを所構わず使うようである. バスの中で携帯電話に向かって話している人は実に多い. 日本と違って, それをマナー違反と考えていない. まあ, バスくらいは仕方ないか, と思っていたけれど, 先日映画を見に行ってみたら, 映画館の中でも上映中, 携帯電話の呼び出し音は結構頻繁に鳴っている. さらに, そのまま応答して話している人もいる. 携帯電話に限らず話し声が余りうるさいと, 「シー!」っと注意する人もいるけれど, 携帯電話の呼び出し音については無頓着なようである.

ポイ捨て イパネマビーチでもレブロンビーチでも, 天気の良い休日に, 折り畳み椅子を持って行ってぼーっと座っていると, 飲み物やアイスキャンディーを売る人達が砂浜を行ったり来たりしている光景が見られる. ファイルに綴じた様々なパターンを見せながら歩いている入れ墨屋さん (?) も結構見かける. アイスキャンディーを買っているカリオカの方達の様子には, 最初眼を見張ってしまった. まず, 寝っころがったまま, アイスキャンディー屋を呼びつけ (カリオカは一般にものぐさ), 寝っころがったまま, 代金を払い, 自分の欲しいアイスキャンディーを手に入れる. で, 包装紙は破いたらそのまま, 無雑作に砂浜に捨てる. 何ら躊躇もなく, 自分の寝そべっているすぐ脇にポイっと捨てるのである. 「自分のゴミは持ち帰りましょう」とかいうレベルではない. でもこれは海岸に限ったことではなく, 街角でも, 歩きながら食べていたスナック菓子の袋が空になると, そのまま, 道にポイっと捨てるのである. こちらに来たばかりの頃, それらの光景を目の当たりにしてとてもびっくりしてしまった.

しばらく滞在してみると, 以上は日々よく見かける光景であり, いちいち驚いていたらきりがない日常のようである. しかし, もっとすごいのは, バス車内で飲み終わった炭酸飲料などのペットボトルを, 窓の外にポイっとやる人がいるのである. 最初は, 友人の車に乗っていたときだった. 横を走っていたバスからペットボトルが車の目の前に降ってきたのだ. でも, これも珍しいことではなく, バスに乗ってよく見ていると, 頻繁じゃないけれど, 飲み終わったペットボトルを窓の外に捨てる人がいる. 窓の外に唾やら痰を吐いたり, 鼻の穴の片方を塞いでおいて, フンっとばかりに息を吐いて鼻水を飛ばしている人などはよく見かけるし, 路上であればなおさらのことである. だから, リオの舗道を歩いていて油断なら無いのは足もとばかりではない.

バスの窓の外にゴミを捨てたりするのと同様に, 今住んでいるアパートの上の階に住む人も, よく窓からものを捨てる. 自宅の窓を開け放っていると, 上空からひらひらとキャンディーの包み紙が室内に舞い込んできたり, 窓のさんやエアコンの室外機の上に, 煙草の灰の塊や使用済み綿棒, 脱脂綿, 果物の皮などが乗っていることはしょっちゅうである.

もちろん, カリオカ全員とは言わない無いけれど, どうしてこのようなことをしてしまう人が多いのか.

自分なりに勝手に想像するに, それは, 一言で言えば, 想像力の欠如なのだろうけれど, つまり, 掃除を担当する人が決っており, 自分は決して (自分の家, 室内でも) 掃除は一切しない, という習慣から来ているのではないかと思う. 街の通りでも砂浜でも, オレンジ色の制服を着た掃除を専門とする (多分公務員の) 人をよく見かける. また, ブラジルでは, 相当に貧しくない限り大抵の家では必ずメイドを雇っており, 掃除はすべてメイド任せにしている. 日本でメイドを雇う, というと豪邸に住む御金持ちだけの話かもしれないが, ここブラジルでは, 普通の家庭, 中流以上の家庭ではメイドを雇うのはあたりまえであり, 今回の滞在において, 自分も何回か, メイドを雇ったらどうか, と言われた. たしかに人件費は安いし, 掃除だけをきちんとしてくれるなら結構だけれど, 自分は自分の家に知らない人を入れるのは嫌いなので (特に留守中には避けたい) 雇っていない. 5年前と2年前の経験からいうと, 現金や物を盗まれたことは無いと思っているが, メイドを雇ったなら, 留守中の長電話とか, 台所にあるものの摘み食いなどは覚悟する必要がある. でも, こちらの人にとってはメイドを雇うことがあたりまえであり, 掃除だけでなく, 炊事洗濯子守買い物など, 様々な雑務をメイドに任せる家庭は少なくないらしい. その習慣自身について別にどうこう言うつもりは無い. しかし, どんなに自分の街を汚しても自分には全く関係のないこと, と考えているカリオカが多すぎるんじゃないか, と勘ぐりたくなる. 週末の夕方などにレブロンビーチへ散歩に出かけると, 海岸はもうゴミだらけである.


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