出国手続き: 学外編
パスポート 書く程のことは何も無いのだけれど, パスポートは, たまたま, この5月で有効期限が切れてしまったので, 6月に有効期限10年の赤いのを取得. 自分の場合は, 横浜の中区海岸通りをはさんで山下公園の反対側にある産業貿易センターという建物の2階に取りに行く. 役所の発行する諸書類と写真さえそろえてしまえば, 簡単に取得できる. ただし, 手数料として15,000円かかる. なんで, 15,000円もかかるのだろう? ちょっとボリ過ぎという気がしないでもない.
VISA取得 必要書類を知って, こりゃ結構面倒臭いゾ, って思ったのはVISAの取得. 自分の場合, ブラジルに1年間研究者として滞在するわけであるが, そのためには, Temporary Visa I という visa が必要であり, これを取得するには,
が必要とされる. 1番から6番までは「まあそうだろうな」と納得できるのだけれど, 「えっ?」って思ってしまったのは, 7番8番の翻訳を付けろ, という点と, 9番の『無犯罪証明書』である.
- ブラジル国受け入れ機関からの招聘状 (研究内容・場所・滞在期間が詳細に明記されたもの)
- 渡航費・滞在中の研究費・生活費等の経済保証書
- 写真 5cm × 7cm のもの2枚
- 申請書2枚 (領事館指定のもの)
- 旅券 (6カ月以上の残存有効期限およびビザページが見開きで2頁の余白のあるもの)
- 査証料金として10,200円
- 戸籍謄本 (ポルトガル語訳または英語訳を添付すること)
- 住民票 (ポルトガル語訳または英語訳を添付すること)
- 無犯罪証明書
英語訳添付 まず, 『ポルトガル語訳または英語訳を添付すること』と言われて, 考えてしまったのは, 自分でも情けないけれど, 「どこの役所で作ってもらえばよいのだろう?」 ってことである. 「戸籍謄本や住民票は区役所に行けばもらえるけれど, たとえば英語訳も一緒に発行してもらえるのだろうか?」 と考えてしまった. 五反田にあるブラジル総領事館に行って, 尋ねてみると, これはあっけなく, 窓口の女性 (多分ポルトガル語ネイティブスピーカー) に, 流暢な日本語で
「自分デ訳シテモ, イーデス」
と言われてしまった. アタマから, どこかのお墨付がない英語訳など受け付けてくれないだろう, と信じ込んでいたので, かなりびっくりして
「えっ! 自分で訳すんですか?」
と, 聞き返してしまった. もちろん, 自分なんぞが訳した書類でもよろしいんでしょうか? という意味で尋ねようとしたのだけれど, これはそのような日本語にはなっていないわけで, 窓口の女性は, 優しく,
「他ノ人ニ訳シテモラッテモ, イーデスヨ」
って言われてしまった. 結局, 誰が英語訳しようが, そんなことはブラジル総領事館は気にしないのである.これが逆の立場だったらどうなるだろうか?
つまり, ブラジルなど外国にある日本のお役所が, 現地の言葉で書かれた書類に日本語訳を添付させる際, 多分, しかるべき資格を持った翻訳者なり部署が翻訳した日本語訳書類でないと, 受け付けないのではないかと思う. いろいろな場面で, 若干の軽蔑を込めて, 日本人って権威付けの好きな民族だな, でも自分は違うゾ, なんて思っていたのだけれど, 自分もかなり権威に頼っている人間なのだと気付かされてしまった.
無犯罪証明書 さて, 極めつけに面倒臭いのはこの『無犯罪証明書』というシロモノである. 住民届けのある県の警察本部・鑑識課で発行してもらうこと, と説明された. 自分の場合は, 神奈川県警察本部の鑑識課, ということになる. いろいろな事で有名になったあの神奈川県警察本部である. マスコミは, 神奈川県警察本部を悪の巣窟であるかのごとく扱っていたが, ごく一部の人間が悪事を働いたからといって, その組織に属する人全員が悪人であるかのごとく扱われるのは, 良くないことだと思う. 自分も, 組織としては早稲田大学, そして, その理工学部数学教室に所属しているわけであるが, とばっちりを受けた人のその辺の気持ちは過去の経験からよく分かる: しかし, マスコミの報道も弊害ばかりでなく, 何度もテレビに県警本部が映されていたので, 申請の際, 迷わず辿り着くことができたという効用もあった (って, ちょっと, ちがう?)
少々脱線したが, とにかく, 早速, その神奈川県警に, 必要書類等, 問い合わせてみた. 次の書類が必要であるとのこと:
1番2番は理解できるが, 意味不明なのは, 3番の『ある程度書き込んだVISA申請用紙』というものである. VISA 申請先から用紙を手に入れ, その提出前のある程度書き込んだ状態のものを持って来い, というのである. 警察本部・鑑識課はこれで, 何を確認できると考えているのだろうか? 少なくとも書き込まれた内容については, 実際に提出する用紙と同一かどうか, 警察では知り得ないので, 確かな情報は何も得られないのではないか. それとも, 筆跡でも採取しようということなのか (さすが鑑識課!?).
- パスポート
- 戸籍抄本または戸籍謄本
- ある程度書き込んだVISA申請用紙
総領事館に提出する以前に, 『ある程度書き込んだVISA申請用紙』を鑑識課に見せなければならない, ということは, 一往復, 総領事館に足を運ぶ回数が増えることになる. 自分の場合は, 総領事館が通勤路の途中にあるので, 大した手間では無いとも言えるが, 地方に住む人などに取っては, このような意味不明な理由のために, とんでもない労力を課せられるわけである. その辺の事を電話で問い合わせた際に尋ねてみると,
「皆さん, そうしてますよ」
だってさ. この御答にはびっくりしてしまいました. 皆, 自分の立場が弱いから, 仕方なく理不尽なことにも従っているのである. あまりの横柄さに呆気にとられて, 何も言い返せませんでした. このような場面に遭遇すると, マスコミの県警バッシングはまだまだ手ぬるい, もっと, 徹底的にやるべきだ, なんて思ってしまいました.指紋 ちなみに, 指紋については, 無犯罪証明書申請の際に, バッチリと採取される. 電話で問い合わせた際に, 「指紋も取りますから必ず本人が来て下さい」といわれていたので, スタンプ台で指にインクを付けて用紙に指紋を付けるのかな, なんて考えていたが, これは時代錯誤も甚だしいことがよく解った.
「指紋を採りますのでこちらへ」
って言われてついていくと, Windows98 らしき OS 上で動いているパソコンがあり, 『指紋採取ソフト』(?) が走ったままの状態になっている. 操作画面から推測すると, 秋葉原の量販店で5980円 (税別) 位で買えそうな感じのソフトである. そのパソコンには, 県警特製かどうか知らないけれど, とにかく特注品らしき箱がかぶせてあり (ディスプレーが見えるように, 四角い穴が開けてある), やはり特注品だった気がするキーボードと, これは絶対に特注品の透明なガラスの台が付属しているキカイの前に, 座らされた. そして, その透明なガラスに指を押しつけていると, ガラスに密着した箇所を, 光学的にスキャンして, ディジタルデータとして指紋が取り込まれる仕組みである.これは, すごいハイテクキカイ+ハイテクソフトなのだろう. 日本の警察の科学捜査の水準は世界的にもトップレベルであると聞いてはいたが, それを目の当たりにした気がしてとても納得してしまった. しかし, 一方, なぜか, 大学の文化祭などで, パソコンに子供だましの段ボール箱をかぶせて出店している 『コンピュータ手相占い・一回300円』などを, 何となく連想してしまった. そういえば, 『無犯罪証明書』取得は手数料は取られず, 無料である.
VISA申請用紙 例の『ある程度書き込んだVISA申請用紙』については, 提出するとすぐに返却された. コピーをとった様子である. 念のため,
「記入ミスなどにより総領事館から書き直しを命じられた場合, これと違う内容を提出することになるかも知れませんが, その場合には, どうしたらよいですか?」
と尋ねてみた. すると, 鑑識課の方のお答えは案の定
「それは, こちらは構いません」
とのことであった. 要するに, VISA申請先に実際に提出するものと, 『無犯罪証明書』を取得するために提出するものが異なっていても, 構わない, ということである. 何のために, このような無駄なことを申請者に課すのか, また, 無駄な作業をしているのか, よく理解できない. 警察に人手が余っているので仕事を作ろう, とか, 手数料がかからないぶん申請者に少しでも汗をかかせよう, というような悪意に満ちたものではないと思う. また, 渡航の意思の確認, と考えられなくもないが, かなり形式的であり, 無駄な手続きと言わざるを得ない, と思うのだが...無駄でも役所なのだから仕方がない, それが御役所仕事っていうものさ, という類の事を半分得意になっておっしゃる方がよくいるが, 税金を給料としている人間が無駄な仕事をしている, というのであれば, それは, 税金の無駄使いであり, 即刻, 改善がなされなければいけないことである. そもそも, そのような税金の無駄遣いについて無感覚, 無反応となってしまったら, それは徴税する為政者の思うつぼであり, 「血税をつまらないことに使いやがって, どうしてくれるんだ! 」 「納税者をなんだと思っている!!」 「住民税と所得税だけでも, いくら払わされていると思っているんだ!!!」 って, 書いているうちにだんだん興奮してきたけれど, もうやめましょう. とにかく, 意味不明である.
無犯罪証明書受取 いろいろ不満に思いながらも手続きを済ませると, 一週間で無犯罪証明書が発行される. もちろん, 犯罪をしていない人に限るわけであるが. 一週間後に取りに行くと,
「無犯罪ということで証明書をつくらせていただきました」
と言われた. またまた, 意味不明である. また, 後めたい点は一切無いのだから, あったりまえだろう! って言い返したかったけれど, こちらも, そこはオトナである. ここで県警鑑識課の機嫌を損ねて,
『無犯罪だけれど無礼かつ無作法で反抗的』
などと備考欄に書かれたら, ブラジルに行けなくなるかもしれない. もう少しの辛抱と思いつつ, 従順そうにしていると, 封をする前にその現物を見せてくれた. 今となっては, あまりよく覚えていないのだけれど, 氏名, 住所, 本籍などと共に, 犯罪をおかしていない, という意味のことが英語で書かれていた. 確認してください, とは一言もいわなかったが, でも, これは, 考えようによっては, 名前や住所などの基本データにタイプミスが無いかの確認をさせられていたのかもしれないと, 後で気付いた. その場では,
「ハイ結構です」
と返事した. 何が結構なのかよくわからないけれど, とにかく, こちらも調子を合わせて, 意味不明な返事をすると, 目の前で, 「開けてはいけません」と大きく印刷されたB5位のサイズの茶封筒に入れて, 糊で封をし, 念を入れるためと思われるが,
「自分で開けないでくださいね」
って最後にくぎをさされて, やっと無犯罪証明書が手に入った.