慚愧と感謝

数学科教授 有馬 哲

中学時代, 数学に興味を持ち始め, それ以来数学と生きてきた気がする. 戦争をはさんで学業を離れたこともあり, 学生時代, 初めは化学をやり, やはり数学に戻り, 又晩年には, 物理, 特に相対論にのめりこむようになったが, 一貫して純粋数学の美しさに魅せられた一生であったと思う.
早稲田に勤めたのは三十三年間, この間, 教師が学ばなければ, 学生も学ばないと, 自分なりに努力したつもりである. しかし, 終わりの数年間は, 十分な研究も指導もできなかった. 慚愧の至りである. 温情に満ちた同僚諸君, 優秀な学生諸君に支えられて, 今日を迎えられたことを, 感謝する.
私事であるが, 末娘桃子が, 重症心身障害児となって, 私の人生観は大きく変わった. 価値は一様ではない, 人生もまた様々である. どのような生き方をしてもよい. 努力が, 必ずしも報われるとは限らない. しかし, 学生諸君, 挫けずに生き給え.
早稲田大学理工学部報70号『塔』, 「ご退職の先生方から」より転記
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